令和2年7月3日から7月31日にかけて、梅雨前線が長期間停滞した影響で西日本から東日本にかけての広範囲に大雨が降り続きました。
その結果、全国で死者84名、行方不明者2名、住家の全半壊等9,628棟、住家浸水6,971棟など、極めて甚大な人的・物的被害が発生しました(令和3年1月7日現在)。
特に前線の活動が非常に活発だった7月4日から8日には、熊本県をはじめ、鹿児島県、福岡県、佐賀県、長崎県、岐阜県、長野県の7県において最大級の警戒を呼びかける大雨特別警報が発表され、記録的な大雨を観測しました。その後も前線は本州付近に停滞し、13日から14日にかけては中国地方、27日から28日にかけては東北地方を中心に大雨に見舞われました。
九州南部・北部地方、東海地方と東北地方の多くの地点で、7月3日から31日までの24・48・72時間降水量が観測史上1位の値を超えました。
特に梅雨前線が九州北部まで北上した7月3日夜からは、九州では大気の状態が非常に不安定となり球磨川流域では線状降水帯が形成され、7月4日未明から8時間にわたり、時間雨量30mmを超える激しい雨が降り続きました。
7月4日4:50には、熊本県の天草・芦北地方、球磨地方、宇城八代及び鹿児島県の長島町・出水市・阿久根市・伊佐市に大雨特別警報が発表され、熊本県内に計6回の記録的短時間大雨情報も発表されました。
熊本県球磨郡銚子笠(標高1,489m)から人吉・球磨盆地を貫流し、八代平野に出て八代海へ注ぐ一級河川・球磨川は日本三大急流河川のひとつであり、流域面積は1,880km2におよび、幹川流路は延長115kmで熊本県土の約4分の1を占めています。
流域内市町村は4市5町5村で、流域内人口は約12万人、想定氾濫区域面積は約160km2で、想定氾濫区域内人口は約13.3万人となっています。
上流部(人吉・球磨盆地)
中流部(山間狭窄部)
下流部(八代市街部)
降水量の大部分は梅雨期に集中しており、年平均降水量は約2,750mmと全国の平均降水量の約1.6倍となっています。
7月3日から7月31日にかけての断続的な豪雨により、球磨川本川の中流部から上流部と、最大支川である川辺川の各雨量観測所における6時間・12時間・24時間の降雨量は、観測史上最大を記録しました。
特に7月3日から4日の2日間で時間雨量30mmを超える激しい雨が降り続き、人吉雨量観測所では7月平均雨量471.4mmに対して2日間で410mmが観測されるなど、7月の平均雨量約1ヶ月分が集中して観測される豪雨が発生しました。
S29.4の観測開始以来最大の雨量を観測
S55.4の観測開始以来最大の雨量を観測
S18.1 の観測開始以来最大の雨量を観測
S29.5 の観測開始以来最大の雨量を観測
流域に設置された雨量観測所では、戦後最大の洪水被害をもたらした昭和40年7月洪水や、昭和57年7月洪水を大きく上回る雨量を観測しました。
人吉市九日町の浸水状況
人吉市青井町の浸水状況
梅雨前線が停滞し、6月28日頃から丸4日間長雨が続いたため、球磨川流域で相当量の降雨を記録しました。
その後、前線の活動が活発になり、7月2日深夜から7月3日早朝にかけた集中豪雨により、上流から下流に至るほぼ全川で、甚大な浸水被害が発生しました。
被害の概要(戸) | 最大流量(m3/s) | |||
---|---|---|---|---|
家屋損壊・流失 | 床上浸水 | 床下浸水 | 人吉 | 横石 |
1,281 | 2,751 | 10,074 | 約5,700 | 約7,800 |
人吉市相良町の浸水状況
人吉市宝来町の浸水状況
人吉市街部では引堤や特殊堤による整備がほぼ完了していましたが、これを超えて氾濫が発生しました。
被害は人吉市及び中流部(球磨村、坂本村(現八代市))、芦北町を中心に発生しました。
被害の概要(戸) | 最大流量(m3/s) | |||
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家屋損壊・流失 | 床上浸水 | 床下浸水 | 人吉 | 横石 |
47 | 1,113 | 4,044 | 約5,500 | 約7,100 |
また、平成19年に策定された球磨川水系河川整備基本方針の計画降雨量と今回の実績雨量を比較すると、人吉上流域及び横石上流域ともに計画降雨量を超えた雨量でした。
流域 | 計画規模 | 計画降雨量(mm/12h) | 今回の実績雨量(mm/12h) |
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人吉上流域 | 1/80 | 262 | 322 |
横石上流域 | 1/100 | 261 | 346 |