令和2年7月豪雨球磨川水害伝承記

後代に残す記録

被害の概要

1.一般被害

(1) 人的被害

令和2年7月豪雨は、死者や負傷者など多くの人的被害をもたらしました。熊本県内の犠牲者は65名にのぼり、うち50名(77%)が球磨川流域の氾濫による犠牲者と推測されています。市町村別の犠牲者数は、球磨村が25名と最も多く、人吉市では20名の方が亡くなりました。

球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」への浸水により14名の高齢者が犠牲になるなど、犠牲者の年齢層は、65歳以上の高齢者が86%、75歳以上の高齢者が70%を占めています。

熊本県市町村別犠牲者数・死因・球磨川流域年齢別犠牲者数

市町村 全体(人) うち球磨川流域(人)
球磨村 25 25
人吉市 20 20
芦北町 11 1
八代市 4 4
津奈木町 3 0
山鹿市 2 0
合計 65 50

犠牲者65名の死因

球磨川流域の犠牲者年代

  • 犠牲者数は、熊本県災害対策本部会議資料(熊本県警察本部提供資料)を基に記載
  • 球磨川流域の犠牲者数は、熊本県災害対策本部資料(熊本県警察本部提供資料)の「住所」と「死因」等から推測

人的被害

市町村 死者(人) 行方不明者(人) 負傷者(人) 合計(人)
重傷 軽傷
八代市 4 1 2 19 26
人吉市 20   7 11 38
芦北町 11 1 4 1 17
球磨村 25   2   27
熊本県 令和2年7月豪雨に関する被害状況について(令和3年6月3日)

人吉大橋 上流右岸(7月4日 06:55撮影)

球磨村渡地区(7月9日撮影)

また、犠牲者が発生した場所を整理したところ、人吉市では水色で着色した浸水範囲の広い右岸側で、おおむね浸水範囲内に住所がある方が犠牲になっています。

令和2年7月豪雨の人的被害状況

(左地図)八代市~球磨村 (右地図)人吉市

八代市~球磨村, 人吉市
  • 浸水範囲は国土交通省調査に基づく
  • 犠牲者の発生場所については熊本県災害対策本部会議資料(熊本県警察本部提供資料)の「住所」に基づき集計したものを記載

球磨川右岸側 人吉市紺屋町

7月4日朝撮影

球磨川右岸側 人吉市

7月4日午前中撮影

球磨川右岸側 人吉市上青井町

7月4日朝撮影

(2) 建物被害

球磨川本川の上流域における被害は比較的少なかったものの、球磨川中流部(12km~52km付近)では至るところで浸水や家屋倒壊が発生し、約1,020ha、約6,110戸が浸水被害を受けました。
なお、佐敷川などその他河川や土砂災害も含めると、約7,400戸(棟)の家屋が被災しています。

令和2年7月豪雨の被害状況(球磨村渡地区・人吉市街部)

  • 球磨村渡地区の浸水面積・戸数は、ヘリ調査の浸水範囲により算出した推定値
  • 人吉市街部の浸水面積・戸数は、熊本県調査値

球磨川右岸から約50m離れた場所での家屋倒壊(球磨村渡地区)

球磨川右岸から約50m離れた場所での家屋倒壊(球磨村渡地区)

土砂流入により国道219号が被災(球磨村渡地区)

堤防の損傷と氾濫流による家屋倒壊が発生(人吉市下薩摩瀬町)

氾濫流が人吉市街部を流下し青井阿蘇神社の禊橋の鳥居も水没

建物の一階部分まで浸水(人吉市紺屋町)

高さ3m付近に洪水痕跡を確認(国道445号通り)

堤防を2m程度上回る高さに洪水痕跡を確認(水の手橋下流右岸)

球磨川の中流部(八代市坂本~芦北町、球磨村)では、氾濫流による家屋倒壊も発生し、宅地かさ上げを実施した箇所においても約2~4mの浸水被害が確認されています。

また、人吉市街部や球磨村渡地区では浸水が約590haの広範囲におよび、場所によっては建物の2階まで浸水したほか、国宝青井阿蘇神社では、洪水痕跡から昭和40年7月洪水を約1.5m上回る、寛文9年(1669年)と同程度の浸水深を確認するなど、4,811戸の家屋等が浸水し、家屋の倒壊や流失も発生しました。他にも川辺川流域で、約130haにおよぶ柳瀬橋上流の約170戸が、浸水による被害を受けました。

また、令和3年1月7日現在の厚生労働省情報によると、球磨川流域の2市2町2村で高齢者関係の社会福祉施設30箇所、芦北町の障害者関係施設6箇所、2市3町4村の児童福祉施設29箇所が被災しました。

住家被害

市町村 全壊(棟) 半壊(棟) 一部破壊(棟) 床上浸水(棟) 床下浸水(棟) 合計(棟)
八代市 147 160 102     409
人吉市 900 1,449 299 268 156 3,072
芦北町 73 915 577     1,565
錦町   64 75     139
あさぎり町   51 91   7 149
多良木町 1 8 15   50 74
湯前町     41   1 42
水上村   1 4   6 11
相良村 18 90 75     183
五木村 1     1 5 7
山江村 11 14 20     45
球磨村 332 74 51     457
熊本県 令和2年7月豪雨に関する被害状況について(令和3年6月3日)

令和2年7月4日の青井阿蘇神社周辺浸水状況

7月4日07:22
球磨川の氾濫水により蓮池冠水

7月4日07:42
楔橋水没間近
20分で1m以上水位上昇

7月4日08:04
禊橋水没

7月4日09:42
氾濫水位推定ピーク
球磨川に引き戻しが始まる

7月4日12:12
水位低下で蓮池橋見え始め氾濫水1.5m程度低下

(3) ライフライン被害

1) 電力

大雨による水害や土砂崩れにより、球磨川流域市町村で停電が発生しました。7月4日昼時点で約7,800戸が停電し、多くの住民の日常生活に支障をきたしました。

5日昼にはおよそ5割の停電が復旧しましたが、道路の冠水や陥没、土砂崩れ等のため立入困難地域も多く、12日昼の時点で八代市160戸、芦北町約90戸、球磨村約480戸、五木村約50戸の停電が継続しており、完全復旧までにはおよそ1ヶ月かかりました。

停電戸数

市町村 停電(戸)
八代市 約1,250
人吉市 約1,120
芦北町 約1,470
あさぎり町 約30
多良木町 約70
相良村 約730
五木村 約180
山江村 約510
球磨村 約2,450
内閣府 令和2年7月3日からの大雨に係る被害状況等について(令和2年7月4日 13:30現在)

2) ガソリンスタンド

7月7日7:00に内閣府の非常災害対策本部が発表した被害状況によると、球磨川流域のガソリンスタンドは、八代市で2箇所、球磨村3箇所、人吉市7箇所、芦北町では1箇所の計13箇所が冠水等により営業停止となりました。

13箇所のうち、6箇所が1ヶ月以内に復旧しましたが、6ヶ月以上復旧しなかったところもありました。

3) 下水道

球磨川流域の下水道施設における被災状況では、人吉市の下水処理場1箇所、汚水ポンプ場4箇所、雨水ポンプ場2箇所の計7箇所が浸水のため機能停止しました。

人吉浄水苑(下水処理場)は、日本下水道事業団の支援を受けて応急復旧作業を進め、7月12日から簡易処理による運転を再開するなど、全ての下水施設が数日内に機能を復旧させています。

下水道施設の被害状況

都道府県 市町村・流域等 下水処理場 被害状況等
熊本県 人吉市 人吉浄水苑 浸水のため処理機能停止
熊本県 人吉市 矢黒町汚染中継ポンプ場 浸水のため排水機能停止
熊本県 人吉市 九日町汚水中継ポンプ場 浸水のため排水機能停止
熊本県 人吉市 宝来町雨水ポンプ場 浸水のため排水機能停止
熊本県 人吉市 頭無川雨水ポンプ場 浸水のため排水機能停止
熊本県 人吉市 中神松第一汚水中継ポンプ場 浸水のため排水機能停止
熊本県 人吉市 麓町汚水中継ポンプ場 浸水のため排水機能停止
国土交通省 第4回「水災害対策とまちづくりの連携のあり方」検討会(令和2年7月16日)

4) 上水道

停電による上水道施設の機能停止や取水施設の浸水、水道管の破損などにより、多くの流域市町村で断水が発生しました。

停電解消やアクセス道路の復旧が進むにつれ、徐々に断水は解消しました。

上水道の被害状況

市町村 断水戸数(戸) 断水期間 被害の状況等
最大
八代市 1,015 7/4-8/4
  • 停電や水道管の流出等による断水
人吉市 350 7/4-6
  • 橋梁に添架する水道管の流出による断水
芦北町 4,950 7/4-6
  • 複数の水源及び取水施設の水没による断水
あさぎり町 2,994 7/4-16
  • 送水管破損による断水
  • 土砂流入に伴う浄水場停止等による断水
  • 新たに停電による断水
多良木町 3 7/4-5
  • 水道管の破損による断水
湯前町 5 7/4
  • 橋梁に添架する水道管の破損による断水
相良村 894 7/4-9
  • 停電による断水
五木村 129 7/4-6, 7/9-10
  • 土砂崩れに伴う水源の使用不可等による断水
山江村 220 7/4-16
  • 配水管流出による断水
球磨村 900 7/4-8/28
  • 橋梁に添架する水道管の流出や停電による断水
    (家屋等倒壊地区を除き復旧済み)
八代生活環境事務組合
(八代市、氷川町)
10,242 7/12-13
  • 水源水質悪化による断水
内閣府 令和2年7月豪雨による被害状況について(令和3年1月7日14:00現在)

配水管の露出・破断

天狗橋左岸側の配水管の流失

(4) 避難状況

7月4日13:00現在の消防庁情報によると、熊本県内では4市3町4村の199,044人、90,222世帯に避難指示(緊急)、4市1町1村の71,530人、33,024世帯に避難勧告が発令されました。

人吉市や八代市、球磨村、芦北町、相良村、山江村では避難勧告発令後、防災行政無線の活用や水防団による消防車による巡回放送や戸別訪問などのほか、町内会長や民生委員、地域住民が主体となった自主防災組織などが避難を呼びかけましたが、瞬く間に水位が上昇し、戸別訪問による呼びかけが困難になりました。また、浸水や土砂崩れのため、7月4日朝方から防災行政無線(屋外拡声器)が一部不通になり、インターネットや電話の回線も断線し、住民への情報伝達や気象情報の収集等に支障がでました。

また、翌日5日朝には警戒レベル4の避難指示(緊急)が県内3市4町4村の204,567人、92,703世帯に出されました。

避難の状況

市町村 避難所数(箇所) 避難者数(人)
八代市 4 123
人吉市 10 965
芦北町 9 75
多良木町 1 0
湯前町 2 5
相良村 2 42
球磨村 4 273
錦町 3 18
水上村 3 0
山江村 2 7
内閣府 令和2年7月3日からの大雨に係る被害状況等について(令和2年7月5日14:30現在)

(5) 交通機関

球磨川流域の鉄道で運転見合わせや旅客自動車運送事業者の施設が被災するなど、交通機関に多数の被害が発生しました。

交通機関の被災状況

業種 事業者 被災状況
鉄道 JR九州 橋梁流失、線路冠水等
くま川鉄道 橋梁流失、線路冠水等
肥薩おれんじ鉄道 線路冠水、土砂流入等
旅客自動車運送事業 産交バス(株)人吉/牛深営業所 営業所浸水、複数車両被害等
人吉タクシー(株) 人吉営業所浸水
つばめタクシー(株) 事務所1F浸水
(有)大和タクシー 坂本営業所浸水
芦北観光タクシー(有) 本社営業所浸水
内閣府 令和2年7月3日からの大雨に係る被害状況等について(令和2年7月7日15:00現在)